笑隔藁半紙共虫語

何も好きじゃありませんし何も嫌いじゃありません。



画【テングザルの亜種】


曲【愚図のバガテル】
http://voon.jp/a/cast/?id=wz8tmahs&c=1&t=1



―――
ヨークは警備員に缶コーヒーを渡し、もう冷たくなったパイプ椅子に並んで腰掛けた。
それから、それぞれ手にした肉饅頭を無心に貪った。
肉饅頭のおこぼれを貰おうと詰め掛けたカラスの大群が犇き合いつつ凝視しているような宵だった。
「意見は、いつだって断片的なものです」
曰く警備員の言葉にも表情にも力は無く、まるで葉擦れの音だった。
左右に行き来する大小の車が引っ切り無しに二人の体を扇いでいった。
「じゃあ。独善に生きるしかないかも知れません。僕たちは」
学生の一群が極楽から日帰りでもしたかのような騒ぎで通り過ぎた。
ヨークはそれを眩しそうな目で端へ追い遣り、静まった後景へと視線を寝かせた。
「そういった意味では、私たちは永久に間違い続けることでしょう」
警備員は立ち上がり、形ばかりの柔軟体操をして、勢いで帽子を落とした。
座礁した客船よろしく真っ暗に傾くビルの横っ面に安い月光が垂れ込める。
「自覚するかどうか、それがいつか、という些細な違いだけで」
缶コーヒーの残りを飲み干した警備員は、アリガトウという仕草をヨークに送った。
帽子を拾い上げると、空き缶を捨てる為に車道を横切り、夜陰に沈んでいった。
―――
(『Mimy-Anna and Coppogitte 〜Unemployment of Yorke-Kirke〜』第2章より)